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『ロストケア』の作品情報
監督・脚本 | 監督:前田哲 脚本:龍居由佳里/前田哲 |
ジャンル | ドラマ |
製作年 | 2023年 |
製作国 | 日本 |
上映時間 | 1時間54分 |
補足情報 | – |
『ロストケア』のあらすじ
早朝の民家で寝たきりの老人と介護センター所長の男の死体が発見された。
最初は盗み目的で侵入した男が誤って階段から落ちた“転落事故”と思われていたが、犯人として所長が務める訪問介護センターで働く職員・斯波宗典(松山ケンイチ)の名前が捜査線上に浮かび上がってくる。
検事の大友秀美(長澤まさみ)は斯波を取り調べるが、犯人と思わしき物的証拠もなく捜査は難航。
しかし、斯波が務める訪問介護センター利用者の死亡率が異常に高いことに気付き調べてみると、1ヶ月に2人のペースで亡くなっていたことが判明する。
これらの証拠を基に再度斯波への取り調べを行うが、斯波はあっさりと殺しを認め、さらにそれを「殺人」ではなく「救い」と主張してきたーーー。
『ロストケア』のキャスト
- 松山ケンイチ(斯波宗典)
- 長澤まさみ(大友秀美)
- 鈴鹿央士(椎名幸太)
- 柄本明(斯波正作)
- 坂井真紀
- 戸田菜穂
- 峯村リエ
- 加藤菜津
- やす
- 岩谷健司
- 井上肇
- 綾戸智恵
- 梶原善
- 藤田弓子
『ロストケア』の感想・評価

それは“殺人”か、それとも“救い”か
真面目な介護士による大量殺人をきっかけに、介護問題や孤独死などの社会問題を丁寧に描いた社会派ドラマ映画。
世界中で、そして高齢化社会が急速に進む日本では特に避けられない問題であり、日々の経過によって確実に悪化していくだけの重大な問題を、松山ケンイチと長澤まさみの好演で深く切り込んだ良い映画だった。
映画では描き切れないほど多くの人たちが毎日心を擦り減らしてる状況で、あの大量殺人をもちろん肯定はできないけど、否定をできるかと言われたらすごく難しい。
自分が1人で生活することができず、寝たきりで介護される状況になったとしたらそれでも生きたいだろうか、苦しまずに死ねる方法があるならそっちを選ぶんじゃないかとか、逆にそういう人を介護する側になったら例えそれが親だとしても殺さずにいられるかとか、いろいろと考えさせられる。
少なくとも介護に疲れて人を殺めてしまった人を、介護を経験したこともない人間が紛糾するのはおこがましいなと感じる。
たまに介護に疲れて殺したというニュースを目にするが、映画内の情報では介護問題による殺人が年間45人、8日に1人のペースで発生しているらしい。
自分の親もしくは自分の子供を殺してしまうほど追い詰められている人がこれだけいて、そしていまもギリギリのところで体も心も壊しながら介護している人を想像すると、安楽死制度を作った方がいいと思う派。
だけど、犯罪者への死刑以外で超限定的とはいえ合法的に人への殺人を認めてしまうと、そこから死への距離が一気に縮まってしまうというか、一度認めてしまうと次へのハードルが低くなってしまうのではないかという懸念もある。
もちろん、そこまで人も国も理性がないとは思わないけど、高齢化が一気に進み、物価も上がり、賃金は変わらず、人々がますます余裕がなくなっていく中でも同じことを言えるのかと言われるとわからない・・・。
少し映画の内容に触れると、斯波が生活保護を申請しに行くシーンは、職員の冷たさとやり取りの短さから最初は強引に政府側を悪に描いたように見えた。
しかし、実際はそういった感じで対応されるのかもしれないし、例え優しくされたとしても結果的に申請が却下されているなら同じことだし、生活保護を受けたことがない家族のために申請をしたことがない安全地帯からの目線なんだなと反省。
そして、職員が放った「あなたは働けますよね」というセリフに、介護問題の歪な点が浮き彫りになっている気がした。
生活保護を受給するには親族に頼ることができないことが条件なので、例え斯波の父親が働けなくても親族(息子である)斯波は働けるので父親への生活保護は受理されない、だけど斯波は父親の介護があって働けないから生活保護を申請しにいったという構造なので、「あなたは働けますよね」と言ってしまうとこの問題は一生解決されない。
大変だけど今のところの理想では、生活保護で金銭的な不安を取り除き、介護士などを雇って父親の介護をしてもらう、そしたら斯波は金銭的時間的肉体的精神的負担が減るので働くことができるので、そうして生活が安定すれば生活保護なしでも介護士を雇ったり自分に余裕ができれば父親の世話をすることができる。
生活保護を受けて、それをきっかけに良い方向に進めば良かったんだろうけど、申請が却下されてしまった。
最初からすぐに生活保護を受けようとする人なんて人ほとんどいないだろうし、むしろ最後の頼みの綱としてなんとか助けを求めて来ただろうに、それで断られてしまったらときの絶望感は想像を絶するものだと感じる。
検事役の長澤まさみも殺人犯の松山ケンイチのセリフも、ちょっと世論を代弁しました感が強かったように感じたけど、あれくらいわかりやすくしないと問題を直視できないのかもしれないから、あれはあれで良かったかな。
社会の重要で重たい問題を、真正面から描き切ってとても良い映画でした。