この記事には広告を含む場合があります。
記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。
目次(タップして移動)
『怪物』の作品情報
監督・脚本 | 監督:是枝裕和 脚本:坂元裕二 |
ジャンル | ミステリー、ドラマ |
製作年 | 2023年 |
製作国 | 日本 |
上映時間 | 2時間6分 |
補足情報 | – |
『怪物』のあらすじ
小学5年生の息子・湊(黒川想矢)を愛するシングルマザーの麦野早織(安藤サクラ)は、親子2人で穏やかな日常を送っていた。
しかし、家に帰ってきた湊の片方の靴が無くなっていたり、いきなり自宅で髪を切ったりと、違和感のある出来事が次第に増えていく。
そんなある日、夜中になっても帰ってこない息子を探してなんとか見つけ出すが、その帰り道、運転中の車内からいきなり外に飛び出してケガをしてしまう。
さらには、湊が担任の保利先生(永山瑛太)から「湊の脳は豚の脳」と言われていたことが発覚し・・・。
『怪物』のキャスト
- 安藤サクラ(湊の母親:麦野早織)
- 永山瑛太(保利道敏)
- 黒川想矢(麦野湊)
- 柊木陽太(星川依里)
- 高畑充希(広奈)
- 角田晃広(教頭:正田文昭)
- 中村獅童(星川清高)
- 田中裕子(校長:伏見真木子)
『怪物』の感想・評価
3つの視点から物語を描いたミステリードラマ
息子を愛するシングルマザー、生徒思いの優しい学校教師、無邪気な子供たちの3つの視点から物語を描いたミステリードラマ。
「人は見たいものしか見ない」とか「人は信じたいものを信じる」という言葉があるけれど、登場人物たちも自分もまさにそうで、あらゆる出来事を自分が直接見たわけではないのに、人から聞いた情報や表面だけ見た情報から自分に都合の良い解釈をしたり、その間違った解釈を妄信して間違った怒りを他者にぶつけたりと、内から滲みだす固定観念という怪物を制御できない感覚が物語の終盤までずっと引っ掛かっていて、なんとも言えない気持ち悪さが自分の中にあった。
前半はシングルマザーの麦野早織パートで、息子が学校でいじめられているのではないかという疑問から発覚する、息子に暴力を振るった(とされる)暴力教師と、それに対して不誠実な対応を続ける学校職員たちが怪物で、この段階では早織目線でも視聴者目線でも、どう見たって教師たちが怪物で異質な存在に思える。
しかし、早織パートの終盤で「もしかしたら息子はいじめらている被害者ではなく、いじめている加害者なのではないか」という疑問が出てくる。
その疑問を払拭しようと息子がいじめている(かもしれない)子供・星川依里に会いに行くけれど、息子と仲が悪い感じは一切感じられないし、むしろ息子の体調を気遣い手紙を書こうとしている様子から、仲が良いのかもしれないとまで思えてくる。
だが、その子供の腕に火傷の跡を見つけ、その前日に息子のカバンから出てきたチャッカマンから「息子がいじめ加害者かもしれない」という可能性が出てくる。
ここで安易に考えると、「実は息子はいじめられていたのではなく、他の子供をいじめていた“いじめ加害者”だったのか」となりそうだけど、逆に考えれば、いじめ被害者かもしれない星川依里がいじめ加害者の可能性も出てくる。
そうすると、腕の火傷の跡はいじめ被害の偽装工作にまで思えてきて、とても愛想がよく礼儀正しい姿が逆に不気味さを際立たせていく。
そんな疑問を残しながら場面は移り変わり、中盤は湊と依里の担任の保利先生パートになる。
保利にとっての怪物は、自分を怪物教師扱いするモンスタークレーマーのようなシングルマザーの早織であり、学校を守るために自分を切り捨てる校長などの学校側の人間であり、子供達でもあり、メディアの人たちでもある。
麦野早織パートで見せた先生とは別人で、とても明るくハツラツとしていて、生徒から好かれそうな優しい先生の姿。
ここで「自分が見てた先生の姿は間違いだったのか?」「いや、表の顔とは別のひどい裏の顔があるんじゃないか?」と誰も信じられない疑心暗鬼状態に陥っていく。
結果的には、麦野早織パートで見ていた出来事の裏側が明らかになる、色々な誤解が溶けていくんだけど、そこでまた新たな疑問が浮かんでくる。
それは、「怪物は子供たちなんじゃないか?」ということ。
そうだと仮定すると、新任の先生を追い出すために子供たちが仕掛けた、なにかのゲーム・遊びのようにも思えてくる。
先生が言ってもないやってもいないことを集団ででっち上げ、他の先生や親たちを欺き、先生を追い出すことを目的とした醜悪なゲーム。
終盤は麦野湊・星川依里の子供たちのパートに入る。
彼らにとっての怪物は、親そのものであり、無自覚な価値観の押し付けであり、世間の常識などの、子供にとってどうすることもできない大きな存在の数々。
さすがに子供たちのパートを話すと完全にネタバレになるから内容は避けるけど、子供たちの苦悩や葛藤を描きながら、今まで丁寧に積み重ねてきた違和感をほぐしていくパートとなっている。
物語全体で、豚の脳みそ、自分で雑に髪を切る謎の行動、片方だけが消えた靴、どこか他人事でロボットのような先生たち、火傷の跡、愛想が良すぎる子供、ベランダで先生が放った「違いました!」という言い方、時折出てくる“怪物”というフレーズなどが、常に読者の頭の片隅に不気味さを残し続ける演出も見事。
さらにはタイトルや俳優たちの素晴らしい演技に騙されて、ずっと犯人探しならぬ怪物探しを行っていたけど、そういう誤った見方をしていたこと、それこそが監督の思うつぼだったのかも知れない。