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『あんのこと』の作品情報
監督・脚本 | 監督:入江悠 脚本:入江悠 |
ジャンル | ドラマ |
製作年 | 2023年 |
製作国 | 日本 |
上映時間 | 1時間53分 |
補足情報 | – |
『あんのこと』のあらすじ
21歳の香川杏(河合優実)は、幼い頃から母親に暴力を振るわれ、10代の頃には売春を強要されるようになり、ついには薬物依存症になったりと、過酷な人生を送っていた。
そんなある日、覚醒剤使用の罪で逮捕された杏は、取り調べの際に刑事の多々羅(佐藤二朗)と出会う。
一風変わった性格だが面倒見のいい多々羅に対して、杏は徐々に心を開いていく。
薬物依存を治すために自助グループに通い、介護士として働き、母親から離れて保護シェルターに住み始め、夜間学校にも通うようになったりと、杏の人生が少しずつ好転していくのだが・・・。
『あんのこと』のキャスト
- 河合優実(香川杏)
- 佐藤二朗(刑事:多々羅保)
- 稲垣吾郎(新聞記者:桐野達樹)
- 河井青葉(杏の母親:春海)
- 広岡由里子(恵美子)
- 早見あかり(三隅紗良)
『あんのこと』の感想・評価
幼い頃から壮絶な人生を送ってきた一人の女性の実話を基にした物語。
どんなに真面目で良い子だったとしても家庭環境や周りからの救いの手がなければ落ちるところまで落ちていく。
しかし、抜け出すきっかけさえあれば何度だってやり直すことができる。
だけどやっぱり、歯車が狂い始めればまた同じように落ちるところまで落ちていくという事実を、杏という一人の女性を通してドキュメンタリータッチに描いているように思えた。
とにかく全体的に涙腺が緩むようなシーンが多かった。
手帳を買うシーンでは、お金がなくて小学生の頃から万引きをしていた(母親にさせられていた?)経験から再び万引きしようと考えるもののなんとか踏みとどまり、杏が自分で自信で更生のきっかけを掴む。
その前にも、多々羅からの勧めで薬物更生の自助グループに通うというシーンはあって、実際に一歩踏み出したのは杏なんだけれども、そのきっかけをくれたのは多々羅だから、実際に杏が自力で一歩踏み出したのはたしかあのシーンが初めてだと思う。
(おそらく)人生で初めての給料を使って多々羅にヨガマットをプレゼントするのもウルっとくるし、さらに家族のためにケーキを買って家に帰ってくるシーンにも優しさが溢れてくる。
そのケーキは3個あって、きっと自分と大好きなおばあちゃんと暴力を振るう母親の分。
いくら暴力を振るってこようと、売春を強要されようと、どんなにひどいことをされようと、仮に嫌っていたとしても、杏にとっての母親・家族ということに変わりはないんだという事実には悲しくなってくる。
家を抜け出す前に扉の前で緊張しながら心の準備をしたり、母親の静止を振り切ってなんとか家を抜け出すことに成功したシーンでは、本当の自立の第一歩を踏み出せたんだなと感じる。
その後も、採用された介護施設をちゃんと続けていたり、保護シェルターに入居したり、日記をつけるようになったり、薬物更生の自助グループでは自分のことを離せるようになったり、学校に通うになったりと、安心できる居場所ができたり、人との繋がりができたりしながら、少しずつ、だけど確実に前に進んでいる姿になんだかずっとウルウルしてしまう。
だけど、コロナ禍が原因で、非正規職員だった杏は自宅待機を命じられたり、薬物更生の自助グループはある事件でなくなったり、学校も休校になったりと、少しずつ居場所が奪われていく感じは見ていて辛くなる。
もちろん、こういう経験をしたのは杏だけではないのだけれども、ギリギリの状態だった人がなんとか前を向いて進み始めた矢先のこの出来事は、相当なつらい経験だったんだろうなと思う。
この映画はタイトル通り“あんのこと”を描いているので、壮絶な人生の末に人知れず亡くなった一人の人間に対しての追悼の意味での作品でもあるのかなと思うし、それと同時に、あんと同じような経験をしてきた、もしくはいまも同じような経験をしている人に向けて一筋の希望も伝えようとしているのかなと感じた。
全体的に話がトントン拍子にうまくいき過ぎている感じはしたし、そんな簡単に薬物やめられるの?禁断症状とかなかったの?薬物はどこで調達したの?とか、母親はなんで暴力を振るうようになったの?とか、母親が杏のことを“ママ”って呼ぶ理由は何となく想像がつくけどどうしてそう呼ぶよになったの?とか、役所や職場で怒鳴るシーンとか本当にあったの?過剰に描いていない?とか、杏と繋がりが深かったはずの多々羅の話は事件によりあっさり終わっちゃったとか、色々気になるところはあったけど、杏役の河合優実さんの好演もあり、良い映画だったと思う。
自分が知らないだけでこういう人が世の中にはいるということを知るためにも、一度は観ておいて損はない作品だなと感じました。