【感想・ネタバレ】映画『すばらしき世界』実在した前科10犯の男の生き様を描く

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映画『すばらしき世界』作品情報

監督・脚本監督:西川美和
脚本:西川美和
出演者役所広司
仲野太賀(太賀)
六角精児
北村有起哉
白竜
キムラ緑子
長澤まさみ
安田成美
梶芽衣子
橋爪功
ジャンルドラマ
製作年2021年
製作国日本
上映時間2時間6分
補足情報原作小説:佐木隆三『身分帳』

映画『すばらしき世界』あらすじ

元ヤクザで中年の男・三上(役所広司)は、殺人罪で13年間服役していた刑務所から出所する。
困っている人を放っておけずまっすぐで優しいが、短気ですぐに頭がカッとなってしまう性格の三上にとって、社会はとても生きづらいところだった。
そんな必死に生きる三上の姿を番組のネタにしようと、吉澤(長澤まさみ)の命令で若手テレビマンの津乃田(仲野太賀)が近づいてくる。
やがて、三上の壮絶な過去と必死に生きる姿を追ううちに、津乃田はある決意を固めるーーー。

映画『すばらしき世界』の感想・レビュー

ただのペンギン🐧の映画感想・レビュー&評価
総合評価
 (4.5)

実在した前科10犯の男の生き様を描く


人生の大半を刑務所で過ごし、最後に殺人事件を犯し刑務所に13年服役していた男が出所してからの社会での生き様を描いた作品。
小説家の佐木隆三さんが、実在の人物をモデルに描いた1990年刊行の小説「身分帳」を原案に作られて映画です。

主役を務めた役所広司さんの怪演はもちろん、脇を固める役者たちが素晴らしくて、一度社会のレールからはみ出したものが再び社会に戻ることへの難しさがすごく伝わってくる映画でした。

役所広司さん演じる三上は、14歳の頃から暴力団・ヤクザと関わりを持って組にも入って、前科10犯で6回も刑務所に入って人生の大半をそこで過ごしていて、最後の罪は殺人で、真面目だけど短気でキレやすい人間です。
この文章だけを見ると、法的・社会的に見ても当然“悪人”側の人間なわけで、こういう人は現代の社会でもとても生きづらい性格だと思いますし、社会も彼をすんなりと受け入れるのは難しいと思います。

彼は私生児(結婚していない男女の間に生まれた子)として生まれ、父親に認知されず戸籍がないまま生育し、4歳で母親と離別し養護施設に預けられ、小学5年生頃から放浪癖で人が集まるところを転々としているときに暴力団と関りを持ってしまったことで、事態はより悪い方向へと向かってしまいます。

もちろん、どんなつらい状況でも悪いことをしない人はしないですし、大変の育ちだったとしても罪を犯していい理由には決してなりませんが、同情というか事情を汲むべき理由はあると思います。

だけど、その人がどれだけ大変な人生を送ってきたかなんて社会からしたら関係なくて、そんな社会は、罪を償って出所してこれからは真面目に生きて行こうとする三上には厳しい現実を突きつけくる・・・というのがこの映画を観た率直な感想です。

真面目に犯罪をせずに生きている人間にもつらい世の中は、犯罪者にはもっとつらい世の中なのは当然で、実際、三上は生活保護を受ける際に、「ゴミ溜めのゴミでも見るような目つきです」「肩身が狭いだけムショ(刑務所)の方がマシです」と答えています。
肩身が狭いと感じてるのは三上だけではないみたいで、刑期を満了した出所者のうち、5年以内に再び刑務所に入所する人の割合は50%もいるそうです。
これだけでも、一度でも社会のレールから外れた人間を社会は受け入れてくれないということがわかります。
見方によっては50%は再び罪を犯すことなく生きているということになりますが、その話は一度置いておきます。

あと、三上は番組作成のために取材しに来た若手テレビマンの津乃田が、“罪の意識”や“悪いことをしていた自覚はあるのか”という質問に対してこんな風に答えています。
意訳ですが、「悪いことをしている自覚はない、俺のような人間でも気にしてくれる、あんたも誰かが褒めてくれる場所にいたいだろう」。
レールからはみ出たものを社会が拒み、それに耐えられなくなった者たちが、再び居心地がいい場所(悪の道)に戻ってしまうという悪循環が彼の言葉からはっきりと感じられます。

もちろん、全面的に社会が悪いということを言いたいわけではないですが、「悪いことをした人が悪いだろ」「ただの自業自得だろ」「悪いことをせずに真面目に生きている人だって苦労している」みたいな言葉で切り捨てるのは簡単ですが、彼らのような前科者に対しても寛容な世の中であって欲しいな、自分もそういう人でありたいなと感じました。

内容の話はこの辺にして、『すばらしき世界』というタイトルもいいですね。
前科者や社会のレールからはみ出した者たちに厳しい社会と、その中でも寄り添って温かく接してくれる人たちがいるという意味での『すばらしき世界』。
後半に出てきた、同じ職場にいる自閉症か知的障害を持つ同僚の顔マネをしてバカにする介護施設の人などを指して、『(こんなやつらも普通に生きているなんて、なんて)すばらしい世界なんだ』という皮肉を込めた意味でも、良いタイトルだなと思いました。

社会全体で向き合っていかなければいけないことを再提起したという意味でも、良い映画でした。